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2006年06月30日 [17:02] ジャミル探求記(小説?) 

ジャミル探求記 第9話  クジャラートの闇 後編:ただ一人の復讐者

入梅している今より、入梅前の方が雨が凄い様な……

コンニチハ、Masです。
 
 
 
ネタが無いので……




~ 義賊ジャミルの探求記 ~


~ 第9話 クジャラートの闇 後編:ただ一人の復讐者 ~




「なぁ、ダウド。お前、でっかくなったら何になる?」
 おれは夕日に染まるエスタミルを見下ろしながら、隣に立つダウドに訊いた。
「え? う~ん……何だろう?」
 いきなりの質問に、ダウドは目を瞬かせると、腕を組んで考え込む。
 しばらくうんうんと考え込んでいたダウドは、少しして何かを思いついた様にこちらを向いた。
「ねぇ、ジャミルはどうなのさ?」
 何の事は無い、結局考えは纏まらずに、おれに訊く事を思いついただけだったらしい。この、ダウドの“ちょっとしたしたたかさ”もおれは気に入っていた。
「おれか?」
 おれはダウドに向かってニッと笑みを見せる。言うべき言葉は既に決まっていた。
「おれは盗賊になる!」
 そう、盗賊だ。おれ達みたいな孤児が真っ当な大人になれる程、世の中は甘くない。食う為には裏の仕事しかなかった。だが、どうせ裏の者になるんなら、そうするしか道がないのなら――
「そしていつか、伝説の盗賊ヨッティを越えてやるんだ!」
 ――とことん、裏道を登りつめてやる。
 幼いながらも、おれはそう心に決めていた。
「すごいや、ジャミル!」
 ダウドが尊敬の眼差しでおれを見ながら、手を叩いて歓声を上げる。それを見たおれは、「やれやれ」ってな感じで溜息を吐いて、ダウドに向き直った。
「何言ってんだ。その時はお前も一緒だぞ、ダウド」
「え?」
「当たり前だろ。お前とはずっと一緒だった。ずっと相棒だったんだ。これからだって……そうだろ? 何てったっておれ達は、相棒だからな」
 おれは再びニッと笑う。それを見てダウドは、瞳を輝かせた。
「うん、オイラ、ジャミルとずっと一緒だ! 大人になっても」
「あぁ、おれ達はずっと相棒だ!」
 ――ずっと、相棒だぜ、ダウド……
 ――ずっと……

 また……あいつの夢を見た。
 あの日から……あいつをこの手で殺してしまったあの日から、毎日夢を見続けている。
 あいつと――ダウドと一緒に過ごしていた日々の夢を……
 おれは目の端に残っていた涙を拭い、立ち上がる。目的地はもうすぐそこまで迫っていた。この、おれの中に渦巻く怒りと憎しみを晴らす為に、おれはそこへ向かう。そう、ダウドの仇、アサシンギルドのアジトへ……
 おれの名はジャミル。元は……いや、過去の話なんかどうでもいい。今のおれは復讐者、そう、ただの一人の復讐者だ……

 タルミッタの西、ニューロードから道を大きく外れた荒野の中。
 大きな岩塊がごろごろ転がっている荒れ地に、岩の陰に隠れて穿たれた孔があった。おれはその孔の近くまで移動し、その周りを注意深く観察する。孔の周りには小さな影――そう、人間らしき影が二つ、目立たない様に立っていた。
 情報通りだ。間違いない、あの孔こそがアサシンギルドの本拠地への入り口だ。二人の人間――恐らくは見張り――がこんな場所に居る事自体が何よりの証拠になる。
 ――さて、どうするか……?
 大きな岩陰に隠れながら、おれはこれからの事を考える。
 アサシンギルドの規模は分からないが、見張りが二人居る事を考えると、少なく見積もっても十人は居そうだった。対して、こちらはおれ一人。『魔のエメラルド』でおれ個人の力が上がったとは言え、流石に不利は否めなかった。力を頼りに一人で突入するのは、無謀以外の何者でも無い。
 ――けどまぁ、行くしか無ぇか……
 このまま時間を潰していたら、単身で補給も儘ならないこちらが不利になる。暗くなるのを待つにしても、それまでに向こうの手勢が増えるとも限らない。何より、仇の本拠地が目の前に在るのに、じっとしている……その事に、おれ自身が我慢出来ない。
 覚悟は、決まった。
 ――ダウド……行くぜ!
 おれが意を決して立ち上がった正にその時――
 ドガァァーーン!
「は?」
 大きな爆発音と共に、見張りらしき二人が爆風に煽られ吹き飛ぶ。イキナリの出来事に、おれは唖然とその様子を見ていた。
「水臭いですよ、ジャミル。一人で行くなんて」
「そうだよ、ジャミル。皆、仲間なんだからね」
 唖然と惚けていると、背後から聞き慣れた声がして、おれは振り向く。そこには、アルベルトとアイシャが居た。少し離れた大岩の上には、右手をかざしたバーバラが居る。どうやら、先程の爆発はバーバラの術によるものの様だった。
「お前等……」
「こっちだ……こっちに隠し通路がある……」
 右前方から声が聞こえる。そちらを向くと、ダークが岩陰に隠れ、入り口と思っていた孔から少し離れた大岩を指していた。
 おれが一人でここへ来たのは、ダウドの復讐はおれ一人のものだったからだ。盗賊ギルドから依頼されたのもおれだったし、何より――
 ……あいつ等を巻き込む訳には行かない。
 その思いが強かった。だが、そうして振り切った筈の仲間達に、今おれは助けられている。
「ここは任せて、行って来な」
 そう言うと、バーバラはもう一度術を放った。獣の幻が火を吐く、幻術“火幻術”、力を持った火の幻が、固い岩盤を派手に粉砕する。これで注意は表の入り口に向くだろう。
「皆、ありがとな。――ここは任せたぜ」
 おれは、そう言って三人の方を向いた。アルベルトは頷き、アイシャは微笑み、バーバラはウインクをする。おれは頷きを返すと、ダークの所へと急いだ。
「……あいつ等が注意を引き付けている間に、中へ乗り込むぞ」
 ダークはそう言うと、大岩の影にすべり込む。おれもその後に続いて、大岩の奥へと侵入した。

 アサシンギルドの中に入ると、そこは十字路の形の通路だった。
 薄暗い中、おれ達はダークの先導の下、慎重に奥へと進む。途中、何人かのアサシン達に出会ったが、どいつも声を出す暇も与えず、ダークの技とおれの魔術で昏倒、あるいは再起不能にさせた。警戒を緩めぬまま、おれ達は更に奥へと進んで行く。
「……お前は、今まで術の修練などした事は無いだろう?」
 忍び足で奥へと進みながら、ダークが小声でそう訊いて来た。
「? あぁ、確かにそうだけど?」
「やはりな……」
 一人納得しながら、ダークが頷く。
「“魔術”で一番難しいのは魔力の制御だ。今のお前の術は魔力の制御が全くされていない。先程の術にしてもそうだ。あれではただ力任せ剣を振り回す、子供の遊びと何ら変わらない。あんな事を繰り返していると、『エメラルド』の助けがあるとは言え、すぐに魔力が枯渇してしまうだろう。そればかりか、魔力が暴走して仲間を傷つける恐れも有る。……そうならない為にも、魔力の所制御は大切だ」
 ダークは一旦ここで言葉を切った。身を潜めて、周囲を確認する。
「……ジャミル、お前は術を使う時、魔力を高める為に意識を集中する筈だ。その際に、この位置――」
 ダークは自分の額の中央を指差した。
「ここに魔力が集中する様、念じろ。そう、『エメラルド』のある位置だな。そうすれば、魔力は絞られ、威力も増す。……最も、お前くらいの歳からそれをやるのは厳しいし、言われてすぐに出来るものでも無いが、な……知らないよりはマシだろう」
 ダークはそう説明する。その説明の答えに変わって、おれは一つの事を訊いた。
「……隠し通路の事といい、術の知識といい、ダーク、お前……記憶が、戻ったのか?」
 おれの問いにダークは少しだけ考え込む。だが、首を横に振った。
「……いや、明確には思い出してはいない。……だが、覚えている……次は、こっちだ」
 ダークはそう言って次の扉を開ける。扉の先には先程と同じ様な通路が延びていた。
「大丈夫かよ……?」
 ダークの言葉を疑う訳じゃあ無いが、こうも同じ景色が続くと、流石に不安になって来る。
「これで合っている。間違い無い、あの向こうに見える扉の先が、最奥部だ。……どうやら、そうすんなりは通してくれそうにも無いが、な」
 十字路になった通路の左右、そして今通って来た後方から、数多のアサシン達がやって来た。そして、その背後に見えたのは――
 ――モンスターだと?!
 そう、アサシンの背後に、何体ものモンスターが現れていた。植物、アンデット、翼竜――その種類に統一性は無い。アサシンとモンスター達は、じりじりとこちらににじり寄って来た。逃げ場は一つ、奥の通路のみ。
「……行け、ジャミル!」
 ダークは十字路の真ん中に陣取ると、おれを奥の通路へと突き飛ばした。
「ダーク!」
「ここは俺に任せろ。自らは動かず、催眠術で素人を使うとは暗殺者の風上にも置けん。しかも、モンスターまで使うとは……ギルドはここまで腐ったか!」
 ダークは激昂し、叫ぶ。こんなに感情を露わにするダークは初めてだった。
「心配するな。この程度の数と技では俺は殺せん。お前はお前のやるべき事をやれ!」
 ダークのその叫びを合図に、モンスター達が一斉に襲い掛かる。ダークの叫びでモンスターの注意はそちらに向いていた。おれはダークに背を向ける。そして、振り返らず、真っ直ぐに奥の扉へと走った。
 ――ありがとうよ、ダーク。
 扉が目前に迫る。おれは体当たりで扉を開けた。
 そして――

 そこは一面の花畑だった。
 色とりどりの花が咲き乱れ、虫達が乱舞する。屋内の筈なのに柔らかな日の光が差込み、安らかな空間を作り出していた。
「ここが……アサシンギルドの本拠地……なのか?」
 慎重に花畑を進みながら、おれは呟く。花の下に何が埋まっていてもおかしく無い。
「“幻術”かよ? はん、これじゃまるで――」
 ……楽園……そう言おうとしたその時、ふいに、背後で気配が沸き起こり、声がした。
「そう、ここはこの世の楽園。外の世界は間違っているの」
 心を読んだかの様なその物言いに、いつでも動けるよう身構えつつ、振り向く。
 背後に居たのは五人の女。先程まで全く気配が感じられなかったって事に薄ら寒さを感じる。術か技か、どちらにしても相当の技量の持ち主だ。女達は、ゆっくりとこちらに近づく。全員が見目麗しく、薄衣を纏っただけの妖艶な姿をしていた。この外見なら、あっと言う間に男を篭絡出来るだろう。
 その五人の女の真ん中、一際豪奢な女が一歩前に進み、話し掛けて来た。
「私達は世界中を楽園にするために戦っているのよ。……さあ、あなたも楽園の住人にお成りなさい。私達と共に……」
「楽園……だと?」
「そう……楽園……この世の、楽園……」
 そう言って、女は微笑む。それは男女問わず、見る者を虜にする程の妖艶な微笑み。だが、消しようの無い禍々しい気配を放っていた。間違い無い、こいつがアサシンギルドのボスだ。
 そこまで考えが至ると、おれの心を負の感情が支配する。それと同時に、身体の中で魔力の高まりを感じた。『魔のエメラルド』による『魔』の恩恵。
「楽園……楽園か……へっ」
 おれは女の言葉を一笑した。そして、殺意を込めた視線を放つ。
「……貴様等、どうしてダウドを。あいつは、あいつは暗殺なんかする様な奴じゃ無い。気が弱くて、でも……優しい奴だった」
「ダウド? あぁ、あの坊やね……。そう、じゃあ、貴方がジャミルなのね。あの坊や、失敗したの……。……所詮、使い捨ての駒ね……」
 その言葉が決定的だった。
 おれの中で高まった魔力が、更に爆発的に膨れ上がる。それはもう、いつ暴発してもおかしくない程にまで高まっていた。冷笑を浮かべ、おれは言い放つ。
「駒? ……貴様等がダウドの弱さに付け込んで、あいつを変えちまったんだな? 貴様等の駒として! ……許せねえ。何が楽園だ。ダウドはな、ダウドは今、冷たい土の下だ。ダウド、お前の仇は取ってやるぜ!」
 高まった魔力を全身から放った。“ショックウェイブ”――魔力が強烈な衝撃波となってアサシン達を撃つ。衝撃波を受け、アサシン達の衣服や皮膚がズタズタに裂かれた。
「仕方無いわね……折角私達が誘っているのに……もう良いわ……」
 アサシンボスのその声が合図となり、周囲が変化する。一面の花畑だった空間が、夜よりもなお暗い闇の空間に変わった。更に、取り巻きの女アサシン達がその姿を変貌させる。二人は、身体を獣の様な体毛で覆い、角を生やし、背に蝙蝠の様な羽をも生やした。他の二人は、皮膚が爛れ、包帯がその身を覆う。
「モンスターと……融合したのか!」
 おれの言葉に反応したか、包帯の二人がおれを指差した。すると、その指の爪がイキナリ伸びて襲い掛かって来る。咄嗟の事でおれの反応が遅れた。左からの爪はかわしたものの、続く右からの爪を避けきれずに、脇腹を浅く抉られる。鮮血が飛び、灰色の空間に鮮やかな紅を落とした。
 おれは転がりながらアサシン共から一旦間合いを外し、レイピアを引き抜く。そして、体勢を立て直し、一気に突っ込んだ。踊る様に身体を回転させながら、アサシン共の群れの中を駆け抜ける。レイピアの刃は、アサシン共の包帯を、体毛を、羽を斬り裂いた。
 突然、右に殺気を感じ、おれは前転しながらその場を離れる。一瞬前までおれが居た場所には、蝙蝠羽の一人が左右の鉤爪を振り下ろしていた。前転した勢いを利用して立ち上がり、おれはその蝙蝠羽の懐へ肉薄する。蝙蝠羽は下ろした体勢になっていた鉤爪を、振り上げようとしていた。
「遅い!」
 振り上がる鉤爪をかいくぐり、レイピアを斬り上げる。
「ぎゃあああ!」
 右脇から左肩までを斬り裂かれ、蝙蝠羽が仰向けに倒れた。これで一人を戦闘不能にし、残りはボスも含め四人。だが、一人を倒した事による油断がそこに生まれていた。
「ぐあっ!」
 背後、空間を移動したかの如き動きで、もう一体の蝙蝠羽が現れる。回避する間も無く、横殴りの一撃を受けてしまった。鋭い鉤爪の裂傷により、再び鮮血が飛び散る。更に、同じ様にアサシンボスが目の前に現れ、あの妖艶な笑みを浮かべた。おれの眼前に掌をかすと、そこから闇が生まれ、おれの身体を撃つ。一瞬にして身体は大きな衝撃を受け、おれはゆっくりとうつ伏せに倒れた。
「よくも私の可愛い僕を倒してくれたわね……」
 アサシンボスは爪先でおれの身体を仰向けに転がす。そして、踵を胸に押し付けた。肺と肋骨が圧迫され、骨が悲鳴を上げる。
「があっ、あぁぁ!」
「私達と共に来れば、楽園に住めたものを……残念だわ……」
 胸を圧迫されて、おれは答える事が出来なかった。それを悟ってか、アサシンボスは笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「……まぁ良いわ。貴方にはもう消えてもらいましょう。あぁ、そう。外のお仲間達も一緒にね。あの駒の所へと仲良く送って差し上げるわ。ほほほほほ……」
 アサシンボスの笑いが空間に響いた。
 だが、その笑いはおれの耳には届いていない。
 奴は……アサシンボスは、おれに対して自らの死刑執行を告げる重大なミスを犯していた。
 禁句を――
 ――……仲間……駒?
 ……怒りと、憎しみが、膨れ上がった。
 負の感情に身を任せながら、額に意識を集中させる。おれの意識が、魔力を練り上げ、“力”を形作った。その“力”を集約し、一気に解放する。
 ――弾けろ!
 ドガッ!
 おれの身体を中心として、魔力が爆発した。近くに居たアサシンボス、更には残りのアサシン共が、魔力の――いや、意思が具現化した力の爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。
 おれは力を振り絞って立ち上がり、レイピアを握った。吹き飛んだアサシンボスに向かって、一気に間合いを詰める。だが、近くに居なかった為に威力が半減したか、三人のアサシンがボスを守るように立ちはだかった。
「邪魔だぁっ!」
 おれは再び魔力を集中させる。そして、“力”をアサシン共に向かって放った。
 ボン!
 アサシン共の目の前で、“力”が弾ける。魔力の爆発をまともに受け、アサシン共は吹き飛び、そして、それっきり動かなくなった。
 ゴオオォ!
 突如、目の前が炎に包まれる。だが、翠の輝きが現れたかと思うと、炎をかき消した。
「馬鹿な!」
 手を前に翳した格好のまま、アサシンボスが驚愕の表情で叫ぶ。おれの目は、その姿をもう目前に捉えていた。
 おれは死角からレイピアを次々繰り出す。レイピアが振るわれる度、アサシンボスの身体は、斬り裂かれていった。
「ああぁぁぁーーっ!」
 アサシンボスの悲鳴が上がる。
 アサシンボスは、糸の切れた操り人形の如く、ゆっくりと仰向けに倒れた。
 おれは、倒れたアサシンボスへと慎重に近寄り、注意深く観察する。アサシンボスの身体にはいくつもの裂傷はあったが、胸の辺りがかすかに上下していた。
 ――まだ生きている。
 当然だ。この程度で死なれては、おれの怒り、憎しみは収まらない。
 おれは、アサシンボスの鳩尾辺りを踏み抜く勢いで、体重を掛けて足を乗せる。そして、更に動けない様レイピアをその右腕に突き立てた。手に、肉を貫く感触が伝わって来る。
「ぎゃあぁぁっ!」
 手に伝わった感触、そしてアサシンボスの悲鳴に、おれは言いようの無い愉悦を感じ、おもわず舌を嘗めた。
「さて……何か言い残す事はあるか?」
 右腕に突き立てたレイピアを引き抜き、今度は左の掌に突き立てる。再び肉を引き裂く感触が伝わって来た。
「ぎゃあぁぁっ! 痛いぃぃぃぃっ!」
「あん?」
「……痛い……死にたく無い……。助けて……許して……お願い……」
 アサシンボスは必死に懇願する。いつもそうやって男を篭絡していたのだろう。慢心創痍の身体にも関わらず、蟲惑的に身をくねらせ、濡れた伏し目がちの視線を送って来る。
「……痛い、死にたく無い、か……」
 おれは、その姿を見て冷たく笑った。
「テメェが駒って呼んだダウド……そう、ダウドの奴もそう言って……そして死んだんだぜ? ……痛い、死にたく無い、ってなあっ!」
 左の掌からレイピアを引き抜く。眼下ではアサシンボスが怯えの表情をしていた。仇である女が目の前で怯えている……このおれに。その事が愉悦感を更にくすぐらせ、嗜虐的な感情を昂ぶらせる。それと同時に怒りと憎しみが増大していくのを感じた。こんな奴、こんな奴の所為で、と……。『魔のエメラルド』から力が流れ込み、おれの感情は更に昂ぶる。そして、感情の昂ぶりと負の感情に身を任せ、おれはレイピアを眼下の女の胸の中央に突き立てた。
「あ……か……」
 びくん、とアサシンボスの身体が跳ね上がる。だが、その後、アサシンボスは永遠に動く事は無かった。
 アサシンボスの死と共に、周りの風景が一変する。まるで、霧が晴れる様に……
 変化が止むと、そこは何も無い、殺風景な部屋の中だった。
「終ったぜ……ダウド……」
 すべてが終り、そう呟く。
 ――?!
 突如、禍々しい気配が部屋を包み込んだ。
 直後、背後に赤い影が現れる。そいつが纏うアサシンボスでさえも赤子に思える程の禍々しい気配に、おれは戦慄を覚えた。
 ――こいつは……何だ?
「……仮初めのアサシンギルドでは、この程度の事しか出来ぬか……」
 おれの存在を無視するかの様に、赤い影の男――低く響く声は男のソレ――が、独り呟く。
 ――仮初めのアサシンギルド? この程度、だと? まさか……まさか……
「テメェが……テメェが暗殺者達を操っていたのか!」
 おれは赤い影に向かって叫ぶ。だが、赤い影は意に介した様子が無かった。
「クジャラートを混乱させる計画、失敗だな」
「……テメェ……何者だ?!」
 おれの問いに、赤い影は答える様子は無い。
「やはりジュエルビーストを目覚めさせるしか無いか」
「おい、話を聞け!」
 感情が、一気に爆発した。
 高まった魔力を集束し、赤い影に向かって一気に放つ! 魔力の衝撃波は赤い影を巻き込み、吹き飛ばした――かに見えた。
 だが――
 ドガッ!
 ――なっ?!
 次の瞬間、吹き飛ばされたのは、おれの方だった。
 見えない力で吹き飛ばされたおれの身体は、勢いが衰える事無く後ろの壁に叩きつけられた。突然の事で受身も取れず、身体にまともに衝撃が来る。
「がはっ! がっ!」
 おれはたまらず膝を着いた。頭がくらくらし、意識が遠くなって行く。
「虫けらが、チョロチョロするな! だが、折角ここまで来たのだ。褒美に教えてやろう。我が名はストライフ、ミニオン・ストライフ。偉大なるサルーイン様の僕だ」
 ――ミニオン・ストライフ? サルーイン、だと……?
 思い掛けない名前を耳にした。一瞬、意識が鮮明になる。
 ――止めなければ……
 そう決意し、再び意識を集中させた。魔力が集まるのを感じ……だが、そこまでだった。
「ちっ。殺すのも面倒だ……生かしておいてやる。有難く思え!」
 赤い影――いや、ミニオン・ストライフの姿が、陽炎の如く薄れて行く。やがて、何の跡形も無く消えた。
 ――畜生……
 薄れて行く意識の中、悔しさがおれの心を満たしていた。
 ――畜生……
 ただ、己の無力が悔しかった……


~ 続く ~



■次回予告!!

アサシンギルドは壊滅した。
だが、それはサルーインの僕、ミニオン・ストライフが作り上げた傀儡に過ぎなかった。
クジャラートを混乱させる計画を台無しにされたストライフが次に計画した事。それは、かつてサルーインが「宿命石」に対抗して創り出し、そして手に余った一匹のモンスターの復活であった。
次回~ 義賊ジャミルの探求記 ~
~ 第10話 裏の宿命石(仮) ~
「ミニオン……サルーイン……それが、おれの敵……」



とりあえず、書いてあるのはココまで。
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