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2006年03月22日 [00:40] イスカンダール記 

イスカンダール記:第1章-2

すんません、しばらくコレ続きます……(´▽`;A)

オハヨウゴザイマス、Masです。

つ事で、今日もコレいってみよ!
 
 
 
 
第1章  極楽鳥花の誓い



          2

 イスカンダールが村に戻った時、そこはもう、かつての村では無かった。
 ――炎が、すべてを燃やしていた。
 住んでいた家も、種を蒔き終えたばかりの畑も、家畜も、人も、何もかも……。
 ――大地は、血に塗れていた。
 あちこちから流れ出た紅いモノ――村人が流した血が、地面を鮮やかに染めている……。
 ――空に浮かぶは、赤きエローゼ。
 エローゼは只静かに空に浮かび、紅い光を放っていた……。
(紅い……紅いよ……。みんな紅く染まっている……)
 猛る炎が真夜中の闇を照らし、流れ出た血が大地を染める。空には紅の月。村は鮮やかな紅に彩られていた。
 目を背けたくなる様な凄惨な光景だが、イスカンダールの目には、何故か森の中の光景と重なって奇妙に美しく見えた。そう、現実味の無いその光景は、まるで夢の様な……。
(あ、見とれてる場合じゃないや。家に帰らなくちゃ……)
 一瞬、その光景に見とれていたイスカンダールは、家路へと足を向けた。あまりの衝撃的な光景に既に思考が麻痺しつつも、長年の習慣はそう簡単に変わるモノでは無い。
 イスカンダールが大地に足を踏み出すと、ピシャ、と音がする。一つ音を立てる度に、イスカンダールの足下が紅く染まっていく。思考が麻痺しているので、足が血に塗れるのが全く気にならなくなっていた。
(それにしても、熱いなぁ……)
 炎は、村の全てを灰燼に帰そうと、その猛威を振るっている。
 炎の中をかいくぐり少し村の奥へ進むと、人が一人地面に倒れてるのが見えた。近づいてみると、それは恰幅の良い初老の男、村の村長だった。
(あ……村長さん……こんな所に寝てると風邪引くよ?)
 そう声を出そうとするが、何故か喉が引きつれて音にならない。
 しかし、声が出ようが出まいが、聞こえようが聞こえまいが、今の村長には関係無かった。首はあらぬ方に曲がり、身体からは夥しい量の血が流れている。聞く事も、返事をする事も、ましてや風邪の心配をする事など、今の村長には出来ない。
(変な、村長さん)
 思考が麻痺している今のイスカンダールには、“村長の死”と言う事実の認識が出来ず、今目にしているモノは“変な体勢で寝ている村長”と映っていた。
 物言わぬ村長の亡骸を後にし、イスカンダールは家路を急ぐ。
 途中に何人もの変わり果てた村人達を目にした。皆一様に紅、または黒くなっていた。
(皆寝てる……やっぱり、これは夢なのかな……?)
 麻痺した思考で、イスカンダールはそんな事を考えていた。
 村人の姿を目にする度、無意識に足取りは速くなって行く。気が付けば、駆け足になっていた。
 息を切らせながら、イスカンダールは走った。家に戻れば両親が居る。家に戻ってベッドに潜れば、この紅い夢は覚める。家に戻れば――
 ……家は、無くなっていた。
 ……そして、かつて家が在った場所に、両親は居た。
 いや、ソレが果たして“本当に両親なのか”、イスカンダールには自信が無かった。しかし、心の根底の部分で理解する。ソレは“紛れもなく両親”であった。
 父親は……寝る時の格好のままだった。俯せの体勢で逞しく広い背中を上に向けている。大きな体の上には、厳つい髭面。でもいつもイスカンダールを見守っていてくれる、憧れの父親。しかし、何処にも髭面は見つからない……。本来首があるべき所……そこには何も無かった。
 母親は……首も胴も腕も足も、五体全てがあった。綺麗で、料理が上手で、いつも優しげな笑顔を向けてくれる、自慢の母親。しかし、その身体は炎に包まれていて、全身は黒くなっていた。
(父さん……。母さん……)
 声に出そうとするが、またしても声が出ない。
(ねぇ……返事をしてよ……)
 父親の身体に手を触れる。いつも逞しく自分を守ってくれた身体は、触れた手に嫌な感触を伝えて来た。ぐじゅっ、という音と共に触れた手が紅く染まる。手が染まるのも構わず揺すっても、反応は無い。
 母親の身体に手を触れる。いつも柔らく自分を抱きしめてくれたその身体は、熱を帯び、触れた部分より黒い灰となってボロボロと崩れ落ちた。触れる度に崩れ落ちる身体、もちろん反応は無い。
 イスカンダールは思わず、手を引いた。そして自分の手を見る。両親の身体に触れた手を……。紅く染まり、黒い灰にまみれた手を。
 麻痺していた思考が、やがてゆっくりと現実を受け入れ始めた。
(何……これ?)
 自分の手を見て、疑問が浮かび上がる。更に自分の身体に目を落とすと、いつの間にか血で染まっていた。只一カ所、ストレリチアの花をずっと握りしめていたもう片方の手以外は……。
(何だよ……これ? 何が……一体、何が……?)
 思考と共に麻痺していた感覚が蘇り、両親の身体に触れた感触が戻って来た。更に、風に乗って人を焼く異臭が鼻孔を刺激する。
「う……」
 吐き気がこみ上げてきて、イスカンダールは吐いた。
「はぁ……はぁ……」
 改めて村を見渡す。炎と、血と、それ等を照らすエローゼの光。
 元に戻った思考は、村はもう無くなったのだと、告げる。
「うぅぅ……」
 涙が、溢れて来る。

 ――炎が、すべてを燃やしていた。
 ――大地は、血に塗れていた。
 ――空に浮かぶは、赤きエローゼ。
 ――気が付けば、世界は紅く染まって……。

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ――僕は、一人になっていた……。

 イスカンダールの絶叫が、滅びた村に悲しく響いた……。
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