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2006年03月23日 [12:50] イスカンダール記 

イスカンダール記:第1章-3

これ見て少しでも『U:サガ』に興味を持ってくれると嬉しいな。
と思う今日この頃。

こんにちは、Masです。

今日の分は、ちょっとグダグダですが、とりあえず第1章は終了です。
では、1部の人しか分からない小説ドゾ(´▽`;A)
 
 
 
 
第1章  極楽鳥花の誓い



          3

(…… …… ……あれ?)
 気が付けば、イスカンダールはとある洞穴に横になっていた。身体の下にはマントとおぼしき物が敷かれ、身体にも毛布が掛けられている。
(ここは……?)
 イスカンダールは洞穴の中を見回した。入り口から一番奥までは子供の足でもせいぜい二十歩程度。幅も十歩有るか無いか程の小さな洞穴だったが、二~三人程度であれば、十分休める広さを有していた。
 イスカンダールは洞穴の壁際に寝かされており、洞穴の中心辺りの場所には、火を熾した後が見られた。火の跡の近くには、イスカンダールの物では無い誰かの荷物があり、イスカンダールの他にも誰かが居た痕跡が見られる。
 起きあがり、身体に掛けてあった毛布を外した。血と灰で汚れていた筈の身体には汚れが無く、身に着けている衣服にも汚れは無くきちんと洗濯された物になってる。
(……あれは……夢……だった……?)
 そんな期待が浮かんで来た。しかし、心の何処かでは、“あの出来事は現実”である事を確信している自分が居る。
 イスカンダールが左手に持っている物……それが、“現実”を裏付けていた。ずっと握りしめていて離さなかったのだろう。左手そのものは身体と同じく汚れを除いた形跡はあったが、握っていた部分と握っていた物には残っていた。“現実”を裏付ける物、血と灰と――
(ストレリチア……)
 涙が一滴流れた。“現実”は拭いようが無い。
「うっ……うぅぅ……」
 確信が確定になり、イスカンダールはたまらず嗚咽を漏らしていた。身体を丸め、声が出ないように努める。
「……どうやら、目が覚めた様だな……」
 洞穴の入り口の方から声が聞こえた。低い男の声。
 イスカンダールは振り返って、声の主を見た。
 ガッシリとした体格の、初老――少なくとも、イスカンダールの父親よりは上と感じられた――の男だった。無造作に伸ばされた灰色の髪と髭。浅黒く日に焼けた顔には、年齢を感じさせる皺が刻まれている。よく見ると柔和な顔立ちをしているが、太い眉の下にある瞳は鋭かった。眉と髭の下に隠れた傷が日焼けと相まって、男が過酷な旅をしてきた旅人だと言う事を物語っている。
「何処か痛む所は無いか? 気分が悪いとかそんな感じは?」
 男が心配そうに訊いてくる。
(このおじさんは、誰だろう……?)
 戸惑いを見せるイスカンダールの心情を察したのか、男は笑顔を見せつつ自己紹介を始めた。
「坊主、そんなに警戒するなよ。俺の名はガー二。各地にある遺跡を巡り、遺物を発掘する事を生業にしているトレジャーハンター――冒険者とも言うな」
 男――ガーニは、そう言ってガハハと豪快に笑う。
「坊主はな、二日も眠ったままだったんだぞ」
「二日……。そうだ、村は? 他のみんなは?」
 イスカンダールのその問いに、ガーニは首を横に振った。
「俺が言った時にはもう……。坊主以外の生きてる人間は、誰一人居なかった」
「……」
「倒れていた坊主を見つけ、ここまで運んできたんだが……」
 イスカンダールは紅に染まった村の光景を思い出す。あれだけの惨事、確信が確定になった時に覚悟はしていた。
「やっぱり……」
 覚悟をしていた所為か、それともついさっき流したばかりだったからなのか、こうやって言葉としてハッキリと事実を告げられても、涙が出なかった。ただ単に“現実を受け入れる事を拒否していた”のかも知れない。
「さあ、俺の方は済んだぞ。今度は坊主の番だな。名前は?」
 大きな声でガーニは言った。沈みがちになったイスカンダールを元気付ける為かも知れなかった。
「え……?」
 急に言われてイスカンダールは戸惑う。村の惨状に対する覚悟はしていたが、こっちに対する心の準備は出来てはいない。
「イ……イスカン……ダール……」
 微かに聞き取れる程の声でイスカンダールは言った。
「あぁ?! 何だってぇ?! 男だろ! もっとでっかい声で喋れ!」
 さっきより更に大きな声で、ガーニは言う。
 八歳の少年が見ず知らずの大人を前にして、緊張するなと言う方が無理と言えば無理な事であった。しかも、たった今悲惨な現実を突きつけられたばかりである。しかし、イスカンダールはそう揶揄されて、逆に肝が据わった。正面からガーニの目を見据える。
「ぼ……おれは、イスカンダール。イスカンダールだ!!」
 一人称をわざわざ言い直し、しっかりと、そしてハッキリと言った。瞳には、強烈な意志が宿っている。
 ガーニは一瞬驚いた顔を見せたが、直後に表情を崩すと笑顔になった。先程の豪快な笑いと違い、人を穏やかにさせるような優しげな笑み。
「イスカンダール……か……。良い名だ」
 ガーニはそう言って、イスカンダールの頭に掌を置く。大きくて力強い、それでいて温かい掌だった。父と同じ、優しく包み込む様な掌……。
「あ、れ……?」
 涙が流れていた。
 悲しみの気持ちが、後から後から涙と共に溢れ出て来る。
「おかしいな? どうしたんだろう?」
 涙を見せまいと、イスカンダールはガーニに背を向けた。
「我慢する奴があるか」
 背後からガーニがそう声を掛ける。
「まぁ何だ……さっきは「男だろ」とは言ったがな。男だってな、泣きたい時はだな、泣いても、いいんだぞ。」
 再び頭に掌が乗せられる。父親を思い出させる、優しい掌……。
 途端、今まで心の奥に押し込めていたモノが堰を切って流れ出し、イスカンダールの心に溢れた。
「……っ!」
「今は泣け。泣いて悲しみを癒せ。そして、乗り越えろ。だが、その悲しみは忘れては駄目だ! その悲しみ、その想いが、いつか“力”となる!! いいか、その事を決して忘れるんじゃ無いぞ!!」
 イスカンダールはコクリと頷く。
 そして、泣いた。
 この悲しみが、癒える様に……。
 この悲しみを、忘れない様に……。

 この後、イスカンダールはガーニを「師匠」と呼び、共に旅をする事になった。

 旅を通じ、ガーニはイスカンダールに様々な事を教えた。
「捕ろうなんて気構えたら、いつまで経っても捕ることが出来ない。慣れない内は、魚の動きをよく観察する事だ。そうすれば、次にどう動くかが分かる様になって来る」
 まずは、生きる事で一番大切な“いかに食物を得るか”?
 魚の捕り方や、獣の狩り方、山菜の見極め方等を教えた。万が一、幼いイスカンダールが一人になったとしても、生き抜く為の術である。イスカンダールの学習能力は凄まじく、月が一巡りする前に一人で狩りが出来る様になっていた。
 また、天候の読み方や、泉の在処を知る方法等も同様に覚えた。
 次にガーニが教えた事は、“言葉と文字”。
 この時代、大陸の辺境たる北部地域では、“習字率”はあまり高くは無かった。イスカンダールも全く文字を扱えなかったのである。
 イスカンダールの学習能力はここでも発揮され、大陸で普及されている文字の他に、『術士』と呼ばれる者達が用いる難解な“魔道文字”さえもいくつか習得した。これにはガーニも驚きを禁じ得なかった。
 イスカンダールの才能を知ったガーニは、武術や魔術を始め、「己のすべてを継いで欲しい」と願うようになった。そこで、ある時イスカンダールにこう訊ねた。
「イスカンダール。お前は、強くなりたいか? 誰よりも強く?」
 ここでイスカンダールが「否」と答えれば、己の知る力は教えないつもりだった。
「強く……なりたい。誰にも負けないくらい強く……そう……」
 イスカンダールの目に力強い輝きが宿る。
「“闇”にも負けないくらい……」
 睨むようにガーニの目を見て、力強くそう答えた。
 その言葉を聞いた瞬間、ガーニは少しだけ驚きの表情を見せた。
 イスカンダールは、この時既に自分の村が滅びた原因らしきものを知っていた。ガーニと初めて会話した夜、ガーニの口から“闇の眷属”等の言葉を聞いていたのであった。
 イスカンダールの聡明さを知っているガーニは全てを察し、直ぐに元の表情へと戻った。
「そうか。では、教えよう。この俺のすべてを……」
 それから、修行の日々が始まった。
 知識の吸収だけでなく、武術に於いてもイスカンダールの進歩は目覚ましかった。
 武術で技を会得するのには、技の“型”を体に覚え込ませる必要が有る。それこそ何千、何万もの反復練習を経て初めて自分のモノとなる。
 しかし、イスカンダールは技を一度見ただけで、完璧に再現してしまう。更に、原型の技に改良を加え、新たな技を編み出してしまう程であった。
 その才にガーニは感服し、己の持てる技術を全て叩き込む事を決意する。ガーニは良き師であり、またイスカンダールも良き弟子であった。
 ……ある日、ガーニはイスカンダールにこんな事を言った事があった。
「人は……今現在この世界を支配しているモンスターや竜達と比べ、余りにも弱い。生きていくだけでも厳しい。だからこそ、人は身を寄せ合って生きている。だが、それなのに人同士で争う事もある。悲しい事にな……。うん? まだ、お前には早い……かな?」
 きょとんとした表情を見せるイスカンダールに、ガーニは笑顔を見せてから続ける。
「だがな、そんな世界でも、女や子供達が、いやすべての人々が安心して暮らせる場所が在れば、それは素晴らしい事だと思わないか? なぁ、お前もそう思うだろう?」
 ガーニの言っている事の半分も分からなかったが、「安心して暮らせる場所」……それはとても魅力的な言葉だとイスカンダールは感じ、その言葉に頷くのであった。

 ――十年の歳月が過ぎ――

 イスカンダールは一人草原の丘の上に佇んでいた。
 十年の歳月は、幼い少年を一人の立派な若者に成長させていた。
 背は師のガーニよりも高くなり、鎧を身に着けていても普段とさほど変わらない程の筋力も身に付けた。それは全て師匠たるガーニとの修行によるものだ。
 その師たるガーニは、今イスカンダールの目の前に居る。
 一抱え程の石。それが今のガーニであった。
 ガーニは己の全てをイスカンダールに伝え、安らかな顔で永き眠りに就いた。
 そして、イスカンダールは、再び一人になった。
 ガーニの墓の前で、イスカンダールはガーニとの修行の日々に思いを馳せる。
 ふと、ガーニが以前話していた事を思い出した。
 ――「人々が安心して暮らせる場所――そんな場所が在れば、それはとても素晴らしい事だと思わないか?」――
 人が生きて行くには厳しいこの世界。
 その様な世界に、人が安心して住める場所は無いものだろうか?
 もし無いものならば、いっそ……自分達の手で、自分達の住む場所を創る事は出来ないだろうか? モンスターや他のものの脅威に晒されない場所を……。
 そこまで考えると、あの幼き日の記憶が蘇って来る。
 住んでいた村が紅に染まり、一人になったあの日。
 師と出会い、助けられたあの時。
 イスカンダールがあの時手にしていた花、ストレリチア。
 それは種となり、そしてまた咲き、また種となり……十年の歳月を経て、今、旅人の墓の周りに咲き誇っていた。
 ストレリチアを一房、手に採る。鳥が飛び立つような形状の黄色い花。
 “花”には、各々に“花言葉”がある。ストレリチアも例外では無く、いくつかの花言葉を持っていた。その中で、イスカンダールは一つだけ、只一つだけを覚えていた。

 ――『輝かしい未来』――

 それは、師が望んでいた世界。そして、今となってはイスカンダール自身が望み、思い描く世界。
(人が安心して住める世界――それが今無いのならば、ならば――)
「貴方とこの花に誓う。人が安心して住める世界を、人にとって『輝かしい未来』たる世界を、この手で創る!」
 手にしていたストレリチアを墓石の上に添えて、イスカンダールはガーニの墓前にそう誓った。
 空には赤と青の二つの月が、まるでイスカンダールを見守るかのように輝き、黄色やオレンジ色のストレリチアとイスカンダールを照らしていた。
 墓石の上のストレリチアが赤と青の月の光を受け、鮮やかな色に染まる。イスカンダールには、それが師が自分を励ましてくれている様に感じた。
 イスカンダールは師の墓前に告げる。
「行って来る」
 そして、墓に背を向け歩き出した。

 ―――あの日、俺が旅人――師匠に助けられていなかったら、俺はあのままのたれ死んでいた。何しろずっと手に持っていたストレリチア以外何も、本当に何もなかったからな。
 あの時の師匠の手の温もりは、一生忘れられない。最も、紅に染まった村の事も今でも鮮明に思い出せる、あの経験があったからこそ、人が安心して暮らせる場所を創ろうと思ったんだが……何でこんなに大事(おおごと)になったんだろうな。
 師匠にはいろいろな事を教わった。あらゆる武器を網羅した武術、俺の使っているアレもその一つさ。だが、その命の恩人、まさしく人生の「師匠」であるその人の名は、終ぞ訊く事は出来なかった。俺が知っているのは、「ガー二」と言う“通り名”だけさ……。
                           ~『イスカンダール記』より

 後年、後に『英雄』と称される少年は、苦笑を交えつつ友や仲間にこう話している。
 この時、イスカンダール十八歳。
 一人きりの旅立ちであった。
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